大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

名古屋高等裁判所 昭和44年(ラ)48号 決定

抗告人

渡辺隆

稲葉勝明

相手方

名古屋輸出陶磁器協同組合

昭和四四年(ラ)第四八号(抗告人渡辺隆)

昭和四四年(ラ)第五四号(抗告人稲葉勝明)

名古屋地方裁判所が同庁昭和四二年(ケ)第一四九号土地建物競売事件につき

昭和四四年五月二〇日言渡した競落許可決定に対し、抗告人らからそれぞれ即時抗告の申立がなされたので、

当裁判所は競売法第三二条第二項、民事訴訟法第六八二条第二項により右各抗告を併合した上、次のとおり決定する。

主文

抗告人渡辺隆の抗告を却下する。

原決定を取り消す。

原裁判所の昭和四四年四月二日付競売期日公告に基づく別紙物件目録記載の物件に対する競落は、これを許さない。

抗告費用中抗告人渡辺隆につき生じた部分は同抗告人の負担とし、抗告人稲葉勝明につき生じた部分は相手方の負担とする。

理由

抗告人渡辺隆の抗告の要旨は、別紙「抗告人渡辺隆の抗告要旨」記載のとおりである。

よつて按ずるに、競売法による競落許可決定に対し抗告をなし得る者は競売法第二七条第三項に利害関係人として列記された者および競落人または競買人に限られることは、同法第三二条第二項、民事訴訟法第六八〇条により明白である。しかるに本件全記録によつても、同抗告人が右の利害関係人に該ることを認めることができないから、同抗告人の抗告は抗告権者に非ざる者の抗告たるに帰着し、不適法として却下を免れない。

次に抗告人稲葉勝明の抗告の要旨は別紙「抗告人稲葉勝明の抗告要旨」記載のとおりであるので按ずるに、競売法第二九条第一項、民事訴訟法第六五八条第一号によれば、競売期日の公告には競売に付する不動産の表示を記載することを要するものであるところ、右の立法趣旨は、これによつて競売不動産を特定し、その同一性を知らせると同時に、他の公告記載要件と相まつて、できる限りその不動産の実質的価値を了知させ、これを信じて競売に参加する人々に対して、後日不測の損害を生ずることのないようにすることにあると解すべきである。ところで、競売の目的たる土地につき土地区画整理法に基づく仮換地の指定がなされ、指定された仮換地の位置、形状、面積等が従前の土地に比して著るしく相違する場合には、すでに使用、収益をなし得る土地の状況に著るしい変更が加えられているのであり、また近い将来換地処分により取得すべき土地の状況も従前の土地に比して著るしく異なるものとなることが当然予想されるのである。したがつて、かかる場合においては、右の公告事項の立法趣旨に照らし、競売に付する不動産の表示としては、従前の土地の表示を掲げるのみでは足りず、これと併せて、従前の土地に対する仮換地の表示をも掲げることを要するものと解するのが相当である。

これを本件についてみるに、本件競売の目的物件たる名古屋市東区東芳野町一丁目六番、宅地一八三坪九九(608.23平方メートル)に対しては、本件競売申立当時すでに東六工区七二ブロツク三番、宅地一一四坪九五(379.99平方メートル)が土地区画整理法に基づき仮換地として指定されていた(記録四八丁および一〇六丁以下参照)にもかかわらず、本件競売期日および競落期日のためなされた昭和四四年四月二日付公告(記録一八八丁以下参照)には、右土地につき従前の土地のみが表示され、仮換地の表示がなされていないことが明らかであるところ、右仮換地は、その面積が従前の土地に比して37.5パーセント余減少しているから、右公告により従前の土地の表示のみを知つて競買に参加した者は、競落の結果不測の損害を蒙るおそれがあるといわなければならない。

したがつて、右公告中右の土地に関する部分は前記法条に違背し不適法であるから、競売法第三二条第二項、民事訴訟法第六七四条第二項、第六七二条第四号により、本件競落中右の土地に関する部分はこれを許すべきでない。また右公告によれば、本件競売におては右土地と他の競売物件とは一括競売に付せられていることを認め得るところ、右土地を除く他の競売物件についてのみ競落を許すときは右の競売条件に牴触するから、結局本件競落は本件競売物件全部につき、これを許すべきでない。したがつて、右公告に基づく本件競売における競落人たる抗告人稲葉勝明の本件即時抗告は理由がある。

よつて、抗告人渡辺隆の本件即時抗告の申立を却下し、抗告人稲葉勝明の即時抗告に基づき、原決定を取り消して前記公告に基づく本件競落はこれを許さないこととし、抗告費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条、第九三条に従い、主文のとおり決定する。(福島逸雄 広瀬友信 大和勇美)

物件目録

1 名古屋市東区東芳野町一丁目六番

一、宅地 608.23平方メートル

(右に対する仮換地)

東六工区七二ブロック三番

一、宅地 379.99平方メートル

2 名古屋市東区東芳野町一丁目六番地

家屋番号 同町一丁目一一番の四

(イ) 木造瓦葺二階建倉庫

床面積 一階 99.17平方メートル

二階 82.64平方メートル

(ロ) 木造瓦葺平家建工場

床面積 99.17平方メートル

(ハ) 木造瓦葺平家建事務所

床面積 34.71平方メートル

以上 所有者 西田政一

ただし2(イ)の物件は現存しない。

3 名古屋東区東芳野町一丁目六番地

家屋番号 六番の二

木造亜鉛メッキ銅板葺二階建事務所付居宅

床面積 一階 60.33平方メートル

二階 59.50平方メートル

右所有者 西田政雄

抗告人渡辺隆の抗告要旨

一、「原決定を取り消す。本件競落はこれを許さない。」との判決を求める。

二、(一) 抗告人は、本件競売物件1の土地のうち、中央南寄りの二五坪(82.64平方メートル)の部分を所有者西田政一から昭和四二年五月一六日建物所有の目的で期間を五年と定めて賃借し、右借地上に本件競売物件2の建物を所有している。

(二) 華昌貿易有限会社は本件競売物件の建物を所有者西田政雄から昭和四〇年七月二二日期間を同年八月一日から五年間と定めて賃借したが、抗告人は右所有者の承諾を得た上昭和四三年二月五日右会社から右賃借権の譲渡を受け、更に右所有者の承諾を得てこれを古橋産業株式会社に転貸中である。

(三) 以上のように本件競売物件には抗告人のため賃借権が存在するにもかかわらず、本件競売期日公告にはその旨の記載がなされていないから、かかる不適法な公告に基づく本件競落は許されるべきでない。

抗告人稲葉勝明の抗告要旨

一、原決定を取り消し、更に相当の裁判を求める。

二、本件競売期日の公告には、競売物件たる土地の表示として「名古屋市東区東芳野町一丁目六番、宅地608.23平方メートル」とのみ記載されていたので、抗告人は右公告を信用して競売に参加し本件競落許可決定を受けた。しかるに右土地に対しては仮換地の指定がなされており、その面積は右公告表示の面積に比して約五〇坪少ないとのことである。したがつて現実に存在しない右五〇坪の土地の競落は不能である。

また右公告中には本件各競売物件につき賃貸借はないと記載されているが、実際には賃貸借関係のあることが判明した。したがつて、右公告はこの点においても違法である。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例